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指揮権(しきけん)とは法務大臣が検察官を指揮すること。 ==概要== 検察庁は行政機関であり、国家公務員法の規定に基づき、その最高の長である法務大臣は、当然に各検察官に対して指揮命令ができるのであるが、この指揮権については検察庁法により「検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」として、具体的事案については検事総長を通じてのみ指揮ができるとした。一般的に法務大臣の指揮権とは、個々の事件について検事総長を指揮することを指す。 検察官は、例外を除き起訴権限を独占する(国家訴追主義)という極めて強大な権限を有し、刑事司法に大きな影響を及ぼしているため、政治的な圧力を不当に受けないように、ある程度の独立性が認められている。検察官はそれぞれが検察権を行使する独任官庁であるが、検察官は刑事裁判における訴追官として審級を通じた意思統一が必要であることから、検察官は検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する(検察官同一体の原則)。そのため、法務大臣から個別事件について指揮を受けた検事総長は検察官同一体の原則によって、下位の検察官に対して影響を及ぼすものとされる。 法務省の訓令である処分請訓規程(昭和二十三年法務庁検務局秘第三六号訓令)と破壊活動防止法違反事件請訓規程(昭和二七年法務府検務局秘第一五七〇号訓令)では検事総長が法務大臣の指揮を受けるべき事件として「内乱罪、外患罪、国交に関する罪等」・「破壊活動防止法違反」など国家のアイデンティティに深く関わる犯罪があげられている。また、検事総長は現職国会議員を令状逮捕する場合のように政治問題化することが予想されるような事件については、衆議院議員総選挙と内閣総理大臣指名選挙によって選出された内閣総理大臣によって任命された法務大臣に対し、積極的に報告を行って指揮を仰ぐものと考えられている。法務大臣の指揮権は民主主義的な支持基盤を持たない行政機関である検察が独善的な行動をとらないよう掣肘する目的も有しており、閣議決定による認証官人事及び法務大臣の人事権とあわせて行政機関の民主主義的コントロールを意味している。検察権は、犯罪を捜査し処罰を請求する能動的な作用であるから、その監督と責任は政府がにぎるのは当然であって、消極的に人権を保障し、国家権力の行使を阻止する司法権のような独立は認められず、検察権を独立させることは、理論上権力分立に反するだけでなく、なんら政治的責任を負わず民主的監視を受けない強大な官僚陣営を認めることとなって弊害を生ずる〔兼子一/竹下守夫『裁判法 』有斐閣343頁‐344頁〕。なお、検察権への監視としては、法務大臣の指揮権以外にも検察審査会、付審判制度、検察官適格審査会などの制度が存在する。 検事総長を務めた伊藤栄樹は「逐条解説 検察庁法」で検察に反する指揮権発動がされた場合に「検事総長の識見と判断に委ねられるという他はない」とし、注釈に検事総長の対応策として、不服ながらも指揮に従う、指揮に反する、官職を辞する、の3つを挙げた。しかし、検事総長が法務大臣の指揮に反する行動をとることは国家公務員法違反にあたると問題とされ、当事の秦野章法務大臣は伊藤の「指揮に反することができる」説を間違った説とした上で、「行きすぎれば検察の暴走に結びつく」として厳しくこの見解を批判した〔秦野章『角を矯めて牛を殺すことなかれ』光文社〕〔秦野章『何が権力か。』講談社〕。上司の職務命令には一種の公定力が認められているため、法的には「法務大臣の職務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り違法なものでも服従する義務がある」とされ、伊藤の「指揮に反することができる」とする見解は明らかに国家公務員法及び検察庁法に反し、検察の独善を許す見解であるとして、現在では主張されていない。法務大臣の指揮権に反した検事総長は、職務上義務違反として免職を含めた懲戒処分が下されることになる。指揮権発動の結果の是非については、発動後の政治責任の問題である。政治的批判にその機会を与えるのが、まさに検察法14条に規定される指揮権の目的である〔平野龍一『刑事訴訟法』有斐閣 65頁〕。 検事総長への指揮権は法務大臣のみに存在し、内閣総理大臣には存在しない。しかし、内閣総理大臣は行政各局への指揮監督権と法務大臣を含めた閣僚任免権限があることで、間接的に検事総長への指揮権に影響力を及ぼしている。また、内閣総理大臣でなくても法務大臣を含めた閣僚に対して大きな影響力を持っている大物政治家にとっては、不文律の権力構造として検事総長への指揮権に影響力を及ぼすと考えられている。法務大臣が指揮権を悪用する事態には衆議院が持つ内閣不信任権によって抑制されることになる。 京都産業大法科大学院教授の渥美東洋は「日本の社会や経済が大混乱に陥る可能性があるとき以外は指揮権を発動してはならない」と指揮権について極めて慎重に扱うべきとした〔読売新聞 2009年6月19日〕。法務大臣が国会や記者会見などでは具体的な事件に関する質問を受けた時は「個別の事件についての答弁は差し控えたい」として、政治的な圧力を疑われないように検察の判断を尊重するコメントを述べることが殆どであり、指揮権発動について極めて抑制的に考えられている〔産経新聞 2009年11月23日記事〕。しかし、造船疑獄での指揮権発動以降、法務大臣と検事総長の間には常に緊張感が漂っていると言われている。ある検事総長経験者は、もし、指揮権が発動されたら指揮には従わず、辞表を出す覚悟だったと証言している〔『ドキュメント検察官』 135-136頁。〕。元検察幹部は、指揮権発動があるとすれば大臣との間に「誤解」が生じてしまっているということ、双方の立場をわきまえた上で大臣に極力情報を上げるようにすることが、造船疑獄以降、組織が得てきた教訓だと思うと述べている〔『ドキュメント検察官』 136頁。〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「指揮権 (法務大臣)」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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